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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)210号 判決 1998年6月24日

新潟県三条市南四日町4丁目1番9号

原告

株式会社グリーンライフ

代表者代表取締役

外山晴一

訴訟代理人弁理士

木下憲男

吉井昭栄

吉井剛

吉井雅栄

仙台市青葉区五橋2丁目12番1号

被告

アイリスオーヤマ株式会社

代表者代表取締役

大山健太郎

訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

同弁理士

三好千明

飯島紳行

主文

特許庁が、平成8年審判第862号事件について、平成8年8月13日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「ホースリール」とする実用新案登録第1984515号考案(昭和61年1月14日出願、平成2年7月16日出願公告、平成5年9月24日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成8年1月13日、被告を被請求人として、本件考案の実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成8年審判第862号事件として審理したうえ、平成8年8月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月28日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

ホースを巻き取るリール1が互に結合された左右フレーム2、3の間に回転自在に支持されているホースリールにおいて、左右フレームの各々が内側に向つて一体に延びる複数の中空の杆体7、8を有しており、対応する杆体の一方の先端にソケット14が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで、杆体の中心軸に沿ったねじ15で結合したことを特徴とするホースリール。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、バイコー社の製品情報印刷物(写)(審決甲第4号証、本訴甲第4号証、以下「本件印刷物」という。)が、本件考案の出願前に外国において頒布された刊行物であるものとは認められず、また、本件考案が、実開昭59-30061号公報(審決甲第1号証、本訴甲第1号証)、実開昭56-6869号公報(審決甲第2号証、本訴甲第2号証)及び本件考案の出願前に国内において頒布された刊行物である意匠登録第401884号公報(審決甲第3号証、本訴甲第3号証)に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとも認められないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

1  審決の理由中、本件考案の要旨の認定(審決書2頁9~17行)、バイコー社社長ビジャン・バヤット作成の1995年2月17日付証明書(審決甲第5号証、本訴甲第5号証、以下「第1証明書」という。)の記載事項の認定(同5頁1行~7頁11行)中、同証明書に「甲第4号証(注、本件印刷物)が、本件考案の出願前に頒布されたものであることについては一切述べられていない。」(同7頁1~3行、同頁9~11行)とする部分を除くその余の部分、エリオッツ・ハードウエア社作成の1984年2月6日付購入申込証(写)(審決甲第6号証、本訴甲第6号証)、バイコー社作成の1984年2月1日付価格表(写)(審決甲第7号証、本訴甲第7号証)、請求人(原告)作成の分解斜視図(審決甲第8号証、本訴甲第8号証)及び1984年6月発行のガーランド商工会議所会報(写)(審決甲第9号証、本訴甲第9号証)の各記載事項についての認定(同頁12行~9頁16行)、実開昭56-6869号公報(審決甲第2号証、本訴甲第2号証)及び意匠登録第401884号公報(審決甲第3号証、本訴甲第3号証)の各記載事項についての認定(同10頁13行~11頁13行)並びに本件考案の作用効果についての認定(同12頁13行~13頁12行)は認め、その余は争う。

審決は、本件印刷物が、本件考案の出願前に外国において頒布された刊行物であるものとは認められないとの誤った認定をし、その結果、本件考案が、本件印刷物に記載された考案と同一であること、又は、これに記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたことを看過したものであるから、違法として取り消されなければならない。

2  取消事由(本件印刷物の頒布時期の誤認)

審決は、第1証明書(甲第5号証)に「甲第4号証(注、本件印刷物)が、本件考案の出願前に頒布されたものであることについては一切述べられていない。」(審決書7頁1~3行、同頁9~11行)、「甲第4号証が本件考案の出願前に外国において頒布された刊行物であると認めることができず、」(同11頁15~17行)としたうえで、「本件考案は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案であるとすることができず、また、その出願前に甲第1号証乃至甲第4号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることもできず、」(同12頁4~9行)と判断したが、誤りである。

(1)  審決の認定するとおり、第1証明書には、「これに添付のものは、Bayco の KORD-O-PAK製品の分解斜視図を示す、Bayco, Inc.(“Bayco”)の1ページよりなる製品情報印刷物のコピーです。Baycoはこの製品を販売代理店及び販売店に販売し配給してきました。そして次いでこれらの販売代理店及び販売店がKORD-O-PAK製品を消費者に転売します。私は、当該KORD-O-PAK製品が、添付したテキサス州ダラスにあるElliott's Hardwareからの購入注文書のコピーに示されている通り、1984年2月6日にBaycoによって初めて販売(1984年3月12日に出荷)されたことをここに証明します。」(審決書5頁3~16行)と記載されており、本件印刷物及びエリオッツ・ハードウエア社作成の1984年2月6日付購入申込証(甲第6号証)が添付されている。第1証明書に製品情報印刷物(product information sheet)と記載された本件印刷物が、「KORD-O-PAK」という名称の100フィートコードリールの製品説明書であることは、本件印刷物に、組立に関する説明、部品リスト、注意書きがあること等、その記載内容自体によっても明白であるところ、製品説明書が製品自体に添付されてその販売とともに頒布されることは経験則上明らかである。したがって、第1証明書に、この製品が1984年2月6日にバイコー社から販売された旨の記載があることにより、本件印刷物が同日から頒布された事実も認められるものというべきである。

(2)  本件印刷物が「KORD-O-PAK」という名称の100フィートコードリールに添付されて、1984年2月6日に(遅くとも同年中に)頒布された事実は、バイコー社社長ビジャン・バヤット作成の1996年10月30日付証明書(甲第18号証、以下「第2証明書」という。)、エリオッツ・ハードウエア社総支配人マーク・ブリスの広瀬文彦弁理士宛1996年10月10日付書簡(甲第21号証の1、以下「エリオッツ書簡」という。)及びターナー・ハードウエア社社長Wm.R.ラッセル作成の1997年3月19日付証明書(甲第22号証、以下「第3証明書」という。)の各記載によっても明らかに認められるところである。

また、本件印刷物には、「PAT.PEND.」(特許出願中)との記載があるところ、第2証明書記載のとおり、バイコー社は、「KORD-O-PAK」という名称で、本件印刷物に表示された100フィートコードリールのほかに、これと同じ形態の150フィートコードリールを販売しており、本件印刷物の印刷後に、150フィートコードリールに係る製品説明書(甲第25号証)を作成したが、同製品説明書には「U.S.PAT.# 4442984」との記載があることから、本件印刷物は米国特許第4442984号の設定登録前に印刷されたことが判明する。そして、米国特許第4442984号明細書(甲第19号証)記載のとおり、同特許は1984年4月17日に設定登録されたものであるから、それ以前に本件印刷物が印刷されたことが明らかである。

(3)  上記のとおり、本件印刷物が、本件考案の実用新案登録出願前に米国において頒布された刊行物に当たることは明白である。そして、本件印刷物には、コードリールの分解斜視図が表示されており、これによって、該コードリールが、左右のフレームに一体的に突接された中空の杆体を有し、一方の中空の杆体の先端にソケットが形成されて、このソケットに他方の中空の杆体の先端部を差し込んで杆体の中心軸に沿ったねじで係合する構造であることが明らかとされている。すなわち、本件印刷物には、コードリールとホースリールとの相違がある他は、本件考案と同一の構成を有するコードリールが記載されているところ、コードリールの構造とホースリールの構造とを相互に応用することは頻繁に行われているから、少なくとも、当業者が、本件印刷物に記載された構成をホースリールに適用して本件考案の構成とすることは、極めて容易になし得るところである。

第4  被告の反論の要点

1  審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

2  取消事由(本件印刷物の頒布時期の誤認)について

(1)  第1証明書に原告主張の記載があることは認めるが、その記載に係る製品情報印刷物が製品自体に添付されてその販売とともに頒布されることが経験則上明らかであるとの主張は根拠がない。このような印刷物は、製品の販売後、期待した売上実績が得られないときに頒布することもあり得るし、あるいは逆に好評である場合にさらに販売台数を増加させるために頒布することもあり得るものである。

本件印刷物に、組立に関する説明、部品リスト、注意書きがあるからといって、これが製品とともに頒布されたとすることはできない。

したがって、仮に、原告が主張するように、「KORD-O-PAK」製品が1984年2月6日にバイコー社から販売された事実があるとしても、本件印刷物が本件考案の出願前に頒布されたかどうかは全く不明であり、この点についての審決の認定に誤りはない。

(2)  第2、第3証明書及びエリオッツ書簡も、本件印刷物が本件考案の出願前に頒布された事実を明らかにするものではない。

第2証明書は、第1証明書が作成された後に、その作成人と同一人が作成したものであるが、「商品説明書(a)」を配付した旨の第1証明書にはない事実の記載がある。しかし、実用新案法が、出願前に外国において頒布された刊行物に記載された考案であることをその実用新案登録の無効事由とするものの、外国において公然知られた考案及び公然実施された考案であることを無効事由としていないことは、弁理士であれば当然熟知していることである。それにも関わらず、弁理士である原告代理人が関与して作成された第1証明書に、本件印刷物が頒布された事実の記載がないのは、かかる事実が存在しなかったからとしか考えようがなく、もし、その事実が存在したのであれば、当然第1証明書に記載されたはずである。そうすると、第1証明書の作成の後に再度作成された第2証明書の上記記載は、これをにわかに信用することができないものといわなければならない。また、第2証明書には「添付した印刷物(a)(b)」という記載があるが、印刷物(A)、同(B)は添付されているものの、印刷物(a)、同(b)は第2証明書に添付されていない。

また、エリオッツ書簡は、単なる私信であるうえに、その作成者の憶測に基づいて結論を導き出しているもので、その記載内容をそのまま信用することはできないし、「添付の案内書」との記載があるが、それが何を指しているのかも明らかではない。

さらに、第3証明書は、「以上の通り、バイコー社の商品広告を掲載した前記商品広告誌も、その商品広告の元になった前記バイコー社の『商品説明書(A)』も、いずれも1984年7月4日以前に印刷され、商品販売のために頒布されていたものであることを証明する。」と記載されており、商品広告誌と商品説明書(A)との印刷日を具体的に特定することなく1984年7月4日以前として証明するものであるから、商品説明書(A)の印刷の日が同日以前で商品広告誌の印刷の日よりも後のような場合(例えば、商品広告誌の印刷の日が同年7月2日、商品説明書(A)の印刷の日が同月3日であるような場合)も含んで証明をしていることになる。しかし、そのような場合には商品説明書(A)が商品広告の元になることはできないのであるから、第3証明書の記載内容には矛盾があり、これに信憑性を認めることはできない。

原告は、本件印刷物に「PAT.PEND.」との記載があり、150フィートコードリールに係る製品説明書に「U.S.PAT.# 4442984」との記載があることから、本件印刷物は1984年4月17日に設定登録された米国特許第4442984号の設定登録前に印刷されたことが判明するとも主張する。しかし、本件印刷物の「PAT.PEND.」との記載に係る特許出願が米国特許第4442984号に係る特許出願であることは証明されていないのであるから、原告の主張には飛躍があって採用に値しない。

(3)  仮に、本件印刷物が「KORD-O-PAK」という名称の100フィートコードリールに添付されたものであるとしても、本件印刷物は「頒布された刊行物」に当たらない。

すなわち、その場合には、本件印刷物は、「KORD-O-PAK」製品のパッケージの中に製品とともに入れられていたということになるが、そうであれば、本件印刷物は、公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書であるとはいえないから、実用新案法3条1項3号の刊行物であるということはできない。

また、「KORD-O-PAK」製品が市場におかれる際に、本件印刷物は製品とともに流通することになるが、それは商品を流通に置く行為であって、文書を頒布する行為ではないし、製品のパッケージの中にある本件印刷物はそのままでは閲覧することができず、そのような文書が在中しているかどうかも外から見ただけでは解らない。パッケージを開けば、本件印刷物の閲覧が可能となるが、パッケージを開く行為は購入した消費者が製品を取り出すために行うものであって、本件印刷物を見るのは偶然である。したがって、本件印刷物を「KORD-O-PAK」製品のパッケージの中に製品とともに入れて、製品を販売するためにこれを流通に置いたとしても、本件印刷物が不特定多数の者によって閲覧が可能な状態にあったということはできないから、「頒布された」場合に該当しない。

そうしてみると、本件印刷物を「KORD-O-PAK」製品のパッケージの中に製品とともに入れて流通に置いた場合には、本件印刷物は「KORD-O-PAK」製品から独立した存在ではなく、これと一体のものであり、「KORD-O-PAK」製品の実施の一態様と考えるべきであって、本件印刷物が文書であることの一事をもって、「KORD-O-PAK」製品から切り離し、「頒布された刊行物」に当たるとすることは誤りである。

(4)  本件印刷物に記載されたコードリールは、対応する杆体の先端部が同一径であり、他方の杆体の先端部を差し込んで得るソケットは設けられていないし、ソケットに他方の杆体の先端部が差し込まれてもいないから、本件考案の「対応する杆体の一方の先端にソケット14が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで、」の構成を備えていない。

したがって、仮に、本件印刷物が本件考案の実用新案登録出願前に米国において頒布された刊行物に当たるとしても、これに基づいて本件考案を極めて容易に考案することができたとはいえない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由(本件印刷物の頒布時期の誤認)について

(1)  本件印刷物(甲第4号証)は、「KORDOPAK」、「100ft CORD STORAGE REEL」(100フィートコード収容リール)との標題が付され、コードリールの分解斜視図及び側面写真が表示され、「Assembly」(組立)との表記の下に組立方法が、「Parts List」(部品リスト)との表記の下に部品の一覧が、それぞれ記載されているほか、「注意:定められた容量を超えてコードを使用してはならない」等の記載及び「Bayco Inc.」の作成名義のある文書であって、その体裁から見て、「KORDOPAK」あるいは「KORD-O-PAK」と称する100フィートコードリールの製品説明書であるものと認めることができる。

また、審決が認定したとおり、第1証明書(甲第5号証)に「これに添付のものは、Bayco の KORD-O-PAK製品の分解斜視図を示す、Bayco, Inc. (“Bayco”)の1ページよりなる製品情報印刷物のコピーです。Baycoはこの製品を販売代理店及び販売店に販売し配給してきました。そして次いでこれらの販売代理店及び販売店がKORD-O-PAK製品を消費者に転売します。私は、当該KORD-O-PAK製品が、添付したテキサス州ダラスにあるElliott's Hardwareからの購入注文書のコピーに示されている通り、1984年2月6日にBaycoによって初めて販売(1984年3月12日に出荷)されたことをここに証明します。Baycoは、84年2月~84年12月31日の期間中に約$66,000の KORD-O-PAK製品を販売し;また、Baycoは、1985年中に約$372,000の KORD-O-PAK製品を販売しました。」(審決書5頁3行~6頁1行)と記載されていること、エリオッツ・ハードウエア社作成の1984年2月6日付購入申込証(甲第6号証)に、テキサス州ダラスのエリオッツ・ハードウニア社が同日付でKORD-O-PAKを36パック注文した旨が記載されていること(審決書7頁12~16行)、バイコー社作成の1984年2月1日付価格表(甲第7号証)にバイコー社による1984年2月1日付の購入数量に応じたKORD-O-PAK 1個当たりの価格及び提案小売価格の価格設定等が記載されていること(同8頁4~9頁)は、いずれも当事者間に争いがなく、さらに、上記購入申込証(甲第6号証)には、出荷時期を1984年3月12日とする旨も記載されている。

これらの記載によれば、バイコー社は、テキサス州ダラス所在の販売店であるエリオッツ・ハードウエア社から1984年2月6日付の注文を受けて、製品説明書である本件印刷物に表示された「KORD-O-PAK」と称する100フィートコードリールの最初の販売として、同社に36パックを売り渡し、同年3月12日に出荷したことを認めることができる。

しかし、本件印刷物が前示認定に係る体裁の製品説明書であることに照らせば、それが、「KORD-O-PAK」製品を購入した各消費者を対象とするものであって、個々の「KORD-O-PAK」製品に添付された蓋然性が高いものと考えられるものの、「KORD-O-PAK」製品の最初の販売の時点から添付されていたものと断定するまでには至らず、第1証明書(甲第5号証)、前示購入申込書(甲第6号証)及び前示価格表(甲第7号証)にも、その点はもとより、本件印刷物の頒布に関しては何らの記載もないから、審決が、これらの文書に基づく事実認定として、第1証明書に「甲第4号証(注、本件印刷物)が、本件考案の出願前に頒布されたものであることについては一切述べられていない。」、「甲第4号証が本件考案の出願前に外国において頒布された刊行物であると認めることができず、」と認定したことが直ちに誤りであるとすることはできない。

(2)  しかしながら、弁論の全趣旨により成立の真正を認めることができる第2証明書(甲第18号証)は、1996年10月30日にバイコー社社長ビジャン・バヤットが公証人の面前で作成した証明書であって、「添付した印刷物(a)(b)は、当社が1986年以前に販売した商品『KORD-O-PAK』に付した商品説明書(product information sheets)であって、中央には大きく分解斜視図が印刷されている。印刷物(a)はコード長が100ftの商品用のもの、印刷物(b)はコード長が150ftの商品用のものである。・・・この商品の販売に努力していた当初のことなので、私の記憶で明確に覚えていることですが、この商品説明書(a)は少なくとも1984年4月以前に印刷されたものであり、エリオット社に1984年2月に販売した当社の前記商品に付されたものである。また、この商品説明書(a)はエリオット社以外の前記商品の取引者にも配布されたものである。以上の点について相違しないことを証明する。」との記載があり、印刷物(A)として、本件印刷物が添付されている。第2証明書に添付された文書は、印刷物(A)、同(B)のみであり、aとAとは同一文字の小文字と大文字であるから、同証明書本文中の印刷物(a)は添付の印刷物(A)を指すものと認めるのが相当である。

第2証明書の前示記載によれば、バイコー社がエリオッツ・ハードウエア社から1984年2月6日付の注文を受けて、「KORD-O-PAK」製品の最初の販売として、同社に36パックを売り渡し、同年3月12日に出荷した当時から、本件印刷物が「KORD-O-PAK」製品に添付されていた事実が認められる。

また、弁論の全趣旨により成立の真正を認めることができる第3証明書(甲第22号証)は、1997年3月19日にテキサス州ダラス所在のターナー・ハードウエア社の社長Wm.R.ラッセルが公証人の面前で作成した証明書であって、「当社が作成した『TURNER HARDWARE』なる商品広告誌は、一般の人々に頒布されたもので、その中に、本書に添付した3枚の抜粋(表紙、掲載頁P12、裏表紙)のとおり、バイコー社の販売商品『KORD-O-PAK』の商品広告が掲載されている。この商品広告は、バイコー社が『KORD-O-PAK』の販売の為に当時頒布した、本書にそのコピーを添付した『商品説明書(A)』に記載の『KORD-O-PAK』を紹介したもので、前記『商品説明書(A)』は当社がバイコー社より『KORD-O-PAK』の販売のために頂いたものである。前記商品広告誌には、表紙の上部と右中央部、裏表紙の上部と中央部に、

『7月4日の派手な行事』

『数量がなくならない限りは価格は7月7日まで有効です。』

『金を得よう。

ターナーズ・コンテイナーズに行けば、

私たちはあなたのご足労を価値あるものにします。

1) 1オンスのクルーガーランド金貨-$425の価値一を獲得するために記名すれば、1984年夏のオリンピックの間の週末の始め7月28日の土曜日正午から午後5時の間に、5枚(1家族につき1枚)をただで差し上げます。獲得のためには、この書面は必要ありません。購入は不要です。ターナーズ・コンテイナーズのレジ係に記入用紙について確認して下さい。

裏面にあなたの氏名、住所、郵便番号、電話番号を完全に記入して下さい。』

『ターナー・ハードウエアで買い物をした後は、必ずターナーズ・コンテイナーズへ行って下さい。

販売価格は、1984年7月7目まで有効です。』と印刷していることから明らかなように、1984年7月4日以前に頒布されていたものである。

以上の通り、バイコー社の商品広告を掲載した前記商品広告誌も、その商品広告の元になった前記バイコー社の『商品説明書(A)』も、いずれも1984年7月4日以前に印刷され、商品販売のために頒布されていたものであることを証明する。」との記載があり、「TURNER HARDWARE」との標題のある商品広告誌の抜粋(写)と、(A)の符号が付された本件印刷物の写しが添付されている。

そして、その商品広告誌の抜粋(甲第23号証)は、表紙、掲載頁、裏表紙の3葉からなり、掲載頁中に、本件印刷物に表示された側面写真を転写したと認められるコードリールの側面写真とともに「販売価格1299」等の記載のある「KORD-O-PAK」製品(100フィートコードリール)の広告があるほか、その表紙には「TURNER HARDWARE」との標題のほか、第3証明書の引用のとおり、「7月4日の派手な行事」、「数量がなくならない限りは価格は7月7日まで有効です。」との記載があり、その裏表紙にも「金を得よう。・・・氏名、住所、郵便番号、電話番号を完全に記入して下さい。」、「ターナー・ハードウエアで買い物をした後は、・・・1984年7月7日まで有効です。」との第3証明書で引用された記載がある。

これらの記載によれば、本件印刷物は遅くとも1984年7月4日以前には印刷されていたことが認められ、本件考案の実用新案登録出願前の日である1984年7月4日以前から、本件印刷物が存在していたという限度で、第2証明書の記載を裏付けるものということができる。

(3)  以上の各事実によれば、その余の原告主張につき検討するまでもなく、本件印刷物が本件考案の実用新案登録出願前より「KORD-O-PAK」製品に添付されてテキサス州ダラスにおいて販売されていたこと、すなわち、本件印刷物が、本件考案の実用新案登録出願前に米国において頒布された刊行物に当たることが認められる。

被告は、弁理士である原告代理人が関与して第1証明書が作成されたことを前提として、出願前に外国において頒布された刊行物に記載された考案であることが実用新案登録の無効事由であるにもかかわらず、第1証明書に本件印刷物が頒布された事実の記載がないのは、かかる事実が存在しなかったからであり、その作成後に再度同一人が作成した第2証明書の「商品説明書(a)」を配付した旨の記載は信用できないと主張するが、第1証明書の作成に原告代理人その他弁理士が関与したことを認めるに足りる証拠はないから、その主張は前提を欠くものであって採用することができない。

また、新潟地方裁判所平成8年(ワ)第647号事件の平成9年12月18日の口頭弁論期日における証人外山博の証人調書(写)(乙第3号証)、同事件の同期日における証人広瀬文彦の証人調書(写)(甲第27号証)、同事件の平成10年3月12日の口頭弁論期日における被告(注、本件原告)代表者外山晴一の本人調書(写)(甲第28号証の2)によれば、原告は、バイコー社社長ビジャン・バヤットに第2証明書の作成方を依頼した際、同人から2万ドルの支払方を要求されて、結局これを支払ったことが認められる。しかし、前示証人広瀬文彦の証人調書(甲第27号証)によれば、ビジャン・バヤットは、バイコー社が米国において有する特許を原告が日本で実施したことを理由としてその支払要求をし、原告側の法律上の理由のない要求であるとの主張に耳を貸そうとしなかったので、第2証明書を必要とする原告としては、やむなくこれを支払ったことが認められ、そうであれば、原告が当該金員を支払ったからといって、直ちに第2証明書の信憑性に影響があるものということはできない。

被告は、さらに、第3証明書の「以上の通り、バイコー社の商品広告を掲載した前記商品広告誌も、その商品広告の元になった前記バイコー社の『商品説明書(A)』も、いずれも1984年7月4日以前に印刷され、商品販売のために頒布されていたものであることを証明する。」との記載が、商品説明書(A)の印刷の日が商品広告誌の印刷の日よりも後のような場合を含んで証明しており、商品説明書(A)が商品広告の元になったとの記載と矛盾するので、第3証明書の記載内容に信憑性を認めることはできないと主張するが、第3証明書の前示記載の全体から見て、「バイコー社の商品広告を掲載した前記商品広告誌も、その商品広告の元になった前記バイコー社の『商品説明書(A)』も、いずれも1984年7月4日以前に印刷され」との記載が、商品説明書(A)の印刷の日が商品広告誌の印刷の日よりも後のような場合を含む趣旨でないことは極めて明白であり、この主張も採用できない。

なお、第2、第3証明書とも、審判において提出された証拠ではないが、原告は、審判において、本件印刷物自体を証拠として提出し、かつ、本件印刷物が本件考案の実用新案登録出願前に外国において頒布された刊行物であり、本件考案がこれに記載された考案と同一であるから実用新案法3条1項3号により、又はこれに基づいて容易に考案をすることができたから同条2項により、その登録を無効とすべき旨の主張をしているところ、第2、第3証明書は、いずれも本件印刷物が本件考案の実用新案登録出願前に米国において頒布された刊行物に当たる事実を立証するためのものであるにすぎず、その提出が新たな公知文献の提出に当たるものではなく、あるいは新たな無効事由の主張を伴うものでもないから、本訴においてこれを提出することは許される。

(4)  被告は、本件印刷物が「KORD-O-PAK」製品のパッケージの中に製品とともに入れられていたとすれば、本件印刷物は、公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書であるとはいえないから、実用新案法3条1項3号の刊行物であるということはできず、また、本件印刷物が「KORD-O-PAK」製品とともに市場に流通することになっても、製品パッケージ中の本件印刷物が不特定多数の者によって閲覧が可能な状態にあったということはできないから、「頒布された」場合に該当しないと主張する。

しかし、本件印刷物が「KORD-O-PAK」製品に添付され、製品とともに流通に置かれるということは、「KORD-O-PAK」製品を購入する不特定多数の者に閲覧されることを目的として、少なくとも、「KORD-O-PAK」製品と見合う数の複製された本件印刷物が存在するということであるから、本件印刷物が刊行物に当たることは明らかである。また、「KORD-O-PAK」製品を購入した消費者によって製品パッケージが開かれるまでは、本件印刷物が製品パッケージ中にあるとしても、当該購入者がパッケージの開披後、本件印刷物を閲覧することは十分予期することのできる蓋然性の高い事柄であって、単なる偶然とはいえないから、本件印刷物が頒布されたものであることも明らかである。

(5)  以上によれば、審決が「甲第4号証(注、本件印刷物)が本件考案の出願前に外国において頒布された刊行物であると認めることができず、」(審決書11頁15~17行)と認定したことは、結果的に誤りであることに帰する。

そして、本件印刷物(甲第4号証)には、前示のとおり、コードリールの分解斜視図が表示されているところ、該分解斜視図には、コードを巻き取るリールが互に結合された左右フレームの間に回転自在に支持され、かつ、左右フレームの各々が内側に向つて一体に延びる3個の中空の杆体を有しており、対応する杆体の一方の先端にソケットが形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで、杆体の中心軸に沿ったねじ15で結合する構成が示されているものと認められる。被告は、該分解斜視図のコードリールは、対応する杆体の先端部が同一径であり、他方の杆体の先端部を差し込んで得るソケットは設けられていないし、ソケットに他方の杆体の先端部が差し込まれてもいないと主張するが、該分解斜視図上、対応する杆体の一方の先端にソケットが形成され、他方の杆体の先端部をこれに差し込む構造であることは明らかである。

そうすると、審決の前示認定の誤りは、その結論に影響を及ぼすおそれがあるものと認められる。

2  よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成8年審判第862号

審決

新潟県三条市南四日町4丁目1番9号

請求人 株式会社 グリーンライフ

東京都文京区本郷1丁目25番2号 明幸ビル6階 木下特許事務所

代理人弁理士 木下憲男

宮城県仙台市青葉区五橋2丁目12番1号

被請求人 アイリスオーヤマ 株式会社

東京都豊島区池袋1-8-7 サン池袋1ビル6階 三好特許事務所

代理人弁理士 三好千明

東京都新宿区左門町3番地1 左門イレブンビル7階 飯島商標特許事務所

代理人弁理士 飯島紳行

上記当事者間の登録第1984515号実用新案「ホースリール」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

【1】本件登録第1984515号実用新案(以下、「本件考案」という。)は、昭和61年1月14日に出願(実願昭61-3354号)され、平成2年7月16日に出願公告(実公平2-25818号)された後、平成5年9月24日に設定登録されたもので、本件考案の要旨は、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの、

「ホースを巻き取るリール1が互に結合された左右フレーム2、3の間に回転自在に支持されているホースリールにおいて、左右フレームの各々が内側に向つて一体に延びる複数の中空の杆体7、8を有しており、対応する杆体の一方の先端にソケット14が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで、杆体の中心軸に沿つたねじ15で結合したことを特徴とするホースリール。」

にあると認める。

【2】これに対して、請求人は、平成8年1月13日付けの審判請求書において下記の証拠方法を提示し、本件考案は、その出願前に外国において頒布された刊行物である甲第4号証に記載された考案と同一であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し実用新案登録を受けることができないものであり、又は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、同法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、その登録は同法第37条第1項第1号の規定により無効にすべきである、と主張している。

[証拠方法]

(書証)

甲第1号証:実開昭59-30061号公報

甲第2号証:実開昭56-6869号公報

甲第3号証:意匠登録第401884号公報

甲第4号証:バイコー社の製品案内のための印刷物(写し)、およびその内容を翻訳した書面

甲第5号証:証明書(写し)、およびその内容を翻訳した書面

甲第6号証:エリオッツ・ハードウェア社の購入申込書(写し)、およびその内容を翻訳した書面

甲第7号証:価格表(写し)、およびその内容を翻訳した書面

甲第8号証:甲第4号証のものを図面化したもの

甲第9号証:1984年6月発行、「ガーランド商工会議所」のVOL.6、No.4の抜粋(写し)、およびその内容(部分)を翻訳した書面

(人証)

証人:Bijan Bayat

【3】続いて、上記請求人の主張する無効理由について検討する。

(1)まず、バイコー社の製品案内のための印刷物である甲第4号証が、本件考案の出願前に外国において頒布された刊行物であるか否かについて検討する。

(1-1)当事者間においてその成立に争いのない甲第5号証証明書の英文本文には、

「これに添付のものは、BaycoのKORD-O-PAK製品の分解斜視図を示す、Bayco,Inc.(“Bayco”)の1ページよりなる製品情報印刷物のコピーです。Baycoはこの製品を販売代理店及び販売店に販売し配給してきました。そして次いでこれらの販売代理店及び販売店がKORD-O-PAK製品を消費者に転売します。

私は、当該KORD-O-PAK製品が、添付したテキサス州ダラスにあるElliott’s Hardwareからの購入注文書のコピーに示されている通り、1984年2月6日にBaycoによって初めて販売(1984年3月12日に出荷)されたことをここに証明します。Baycoは、84年2月~84年12月31日の期間中に約$66,000のKORD-O-PAK製品を販売し;また、Baycoは、1985年中に約$372,000のKORD-O-PAK製品を販売しました。」、

なる内容が記載されているものと認められる。

なお、請求人は、上記証明書の英文本文の冒頭部分を、『これに添付したものは、Baycoの「KORD-O-PAK製品」の分解斜視図を示した、Bayco,Inc.(“Bayco”)の製品案内のために販売代理店、販売店、購入者などに頒布した印刷物の1ページのコピーです。』と翻訳しているが、甲第5号証証明書の英文中には「販売代理店、販売店、購入者などに頒布した」に対応する内容の記載は全く見当たらない。

そして、上記証明書の本文冒頭における『これに添付のものは、BaycoのKORD-O-PAK製品の分解斜視図を示す、Bayco,工nc.(“Bayco”)の1ページよりなる製品情報印刷物のコピーです。』なる記載によると、甲第4号証が、バイコー社が製品紹介のため印刷した分解斜視図入りの商品説明書のコピーである点について述べられているが、甲第4号証が、いつ、どこで、誰に、どの様な状況の下で頒布されたものであるのかについて、即ち甲第4号証が、本件考案の出願前に頒布されたものであることについては一切述べられていない。

また、上記証明書の本文冒頭における上記記載以外の記載によると、甲第4号証に分解斜視図で示されているコードリールに相当するKORD-O-PAK製品が、本件考案の出願前である1984年2月6日以降米国内において販売された点について述べられているが、甲第4号証が、本件考案の出願前に頒布されたものであることについては一切述べられていない。

(1-2)また、同じく当事者間においてその成立に争いのない甲第6号証の購入申込書には、

テキサス州ダラスのエリオッツ・ハードウエア社が1984年2月6日付けでKORD-O-PAKを36パック注文した旨、

が記載されているものと認められる。

そして、上記購入申込書によると、本件考案の出願前である1984年2月6日付けでエリオッツ・ハードウエア社がKORD-O-PAKなるものを発注した点について記載されているが、甲第4号証が、本件考案の出願前に頒布されたものであることについては一切記載されていない。

(1-3)さらに、同じく当事者間においてその成立に争いのない甲第7号証の価格表には、

バィコー社による1984年2月1日付けの購入数量に応じたKORD-O-PAK1個あたりの価格および提案小売価格の価格設定等、

が記載されているものと認められる。

そして、上記価格表によると、本件考案の出願前である1984年2月1日にバイコー社がKORD-O-PAKなるものを販売するに当たっての価格設定等をしてしたことについて記載されているが、甲第4号証が、本件考案の出願前に頒布されたものであることについては一切記載されていない。

(1-4)また、さらに、甲第8号証は、甲第4号証に示された分解斜視図を請求人自身が組立斜視図および組立縦断面図として図面化したものであって、本件考案の出願前に頒布された刊行物でないことは明らかであり、また、甲第4号証が本件考案の出願前に頒布されたものであることを証明する証拠とならないことも明らかである。

(1-5)そして、同じく当事者間においてその成立に争いのない甲第9号証の抜粋の2枚目には、

バィコー社の社長、Bijan Bayatであるという人物が、その右手にコードリールのような物を持った内容の写真、

が掲載されているものと認められる。

しかしながら、上記写真によると、バイコー社の社長であるという人物が右手に持っている物が甲第4号証に記載されたKORD-O-PAKと同一のものかどうかは明らかでなく、それ故、上記写真によっても、甲第4号証が本件考案の出願前に頒布されたものであるとすることができない。

なお、上述した甲第4号証、甲第5号証そして甲第10号証(なお、甲第10号証は請求人が提示した証拠方法の中に存在しないので、これは請求人が図面化した甲第8号証を除く甲第6、7、9号証の内のいずれかの誤りと考えられる。)に基づいて、甲第4号証、即ちBayco,Inc.(“Bayco”)の製品案内のための印刷物が、本件考案の出願前に刊行され、販売代理店、販売店、購入者などに頒布されていたことを立証すべく、Bayco,Inc.の社長であるBijan Bayat氏を証人とする証人尋問を申請しているが、上述したように、甲第5、6、7そして9号証のいずれの記載内容によっても甲第4号証が本件考案の出願前に外国において頒布された刊行物であると認めることができない以上、請求人が申請する証人尋問を行なう必要を認めない。(2)次に、本件考案の出願前である昭和59年2月24日に頒布されたことが明らかな甲第1号証(実開昭59-30061号公報)、同じく昭和56年1月21日に頒布されたことが明らかな甲第2号証(実開昭56-6869号公報)、そして同じく昭和50年8月1日に頒布されたことが明らかな甲第3号証(意匠登録第401884号公報)には、それぞれ、請求人が述べているように、

ホースを巻き取るリールが互に結合された左右フレームの間に回転自在に支持されているホースリール、

が記載されている。

しかしながら、これらのものは、本件考案の構成に欠くことができない、

「左右フレームの各々が内側に向つて一体に延びる複数の中空の杆体を有しており、対応する杆体の一方の先端にソケツトが形成されており、ソケツトに他方の杆体の先端部を差し込んで、杆体の中心軸に沿つたねじで結合した」構成、

を備えていない。

(3)したがって、上記(1)において述べたように、甲第4号証が本件考案の出願前に外国において頒布された刊行物であると認めることができず、また、上記(2)において述べたように、甲第1号証乃至甲第3号証が本件考案の構成に欠くことができない「左右フレームの各々が内側に向かつて一体に延びる複数の中空の杆体を有しており、対応する杆体の一方の先端にソケツトが形成されており、ソケツトに他方の杆体の先端部を差し込んで、杆体の中心軸に沿つたねじで結合した」構成を備えていない以上、本件考案は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案であるとすることができず、また、その出願前に甲第1号証乃至甲第4号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることもできず、さらに、その出願前に甲第1号証乃至甲第3号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることもできない。

そして、本件考案は、その実用新案登録請求の範囲に記載された構成を備えていることにより、

「この考案のホースリールは、以上説明したように、左右フレーム2、3から内側に向つて杆体7、8が一体に延びており、これら杆体の先端同士を接合してフレームを組み立てるようにしたので、左右フレームと杆体を別々につくつて組み立てる従来のものに比べ、部品点数、組立工数とも少なく、製造コストを下げることができ、また、接合個所が少ないので、ガタつきのない強固なフレームが得られる効果がある。さらに、対応する一方の杆体の先端にソケツトを形成し、他方の杆体の先端部をソケツトに差し込んでねじで結合したので、杆体と杆体を強固に結合することができる。そして、杆体を中空にして、杆体の中心軸に沿つたねじで結合したので、ねじが外に出ず、見栄えがよい。また、杆体が中空なので、重量が軽い割に高い剛性が得られる。」、

という明細書に記載の特有の作用効果を奏するものである。

【4】以上のとおりであるから、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件考案が実用新案法第3条第1項第3号に該当するものとも、また、同法第3条第2項の規定に該当するものともいうことができず、本件考案の登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年8月13日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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